私たちは土。伸びていくのはあなただよ

びーんずメイトVol.34
一般社団法人かけはし
廣瀬貴樹さん

神奈川県横浜市泉区で公設民営の居場所を
運営する「一般社団法人かけはし」。

「生きづらさを抱える子どもたちに
とことん寄り添いたい」

との思いから、夫婦で小学校の先生を辞めて
地域の居場所づくりを始めた代表理事の
廣瀬貴樹さんにお話をうかがいました。


長いドミノに挑戦中。6歳から15歳までの子が過ごしている。

――廣瀬さんご夫妻はともに小学校の先生でいらしたそうですね。居場所を始めたのは、どんなきっかけからですか?

小学校の先生を14年勤めた中で、家庭環境や背景もふくめて、すごく生きづらさを抱えてる子がいたときに、一教員として何ができるかを考えさせられることが何度もあったんです。心と心のぶつかりあいというか、もう全力で向きあってきたんですけど、「この子のために」という私の思いが強すぎて、逆にその子を傷つけてしまった経験もあって。

そのときに初めて「自分の思いじゃなくて、その子の思いが何より一番大事」ということに気づいた。その失敗からもう本当に自分の教育観がガラッと変わったんですよね。今までの教員人生も問い直されて。

(一社)かけはし代表理事・廣瀬貴樹さん(右)と妻の千尋さん(左)

地域に居場所があることが大事

一教員として学校でできることの限界も感じてました。学校に居場所がない子――不登校だったり、家に閉じこもってしまってる子、家庭に居場所がない子もいると思うんです。

そういう子にとって、地域に居場所があることが大事なんじゃないかなという私なりの答えが出たとき、学校でできないならもう外につくるしかないだろうと。 妻に「居場所づくりをしたい」と相談したら、妻は妻で学校では児童支援専任として生きづらい子とかかわっていたので、私の思いに共感してくれて。一緒に教員を辞めて居場所づくりに人生をかけてみよう、となったのが2021年の4月です。まず3年間は完全無給で収入なしでやっていこうと決めました。

――最初からそういう覚悟で?

義務教育は無償で、あたり前にみんなが教育機会を保障されるべきなのに、不登校になると高いお金を払わないとフリースクールに行けないとか、専門的な支援が受けられないというのはおかしいんじゃないかというのはずっと頭にあったんです。

行政と一緒にやることができれば無料にできると思っていたので、行政への働きかけでは毎回、新聞を作って実績報告をすることも地道に続けてきました。あとは学校連携ですね。最初は毎月一回、子どもたちそれぞれの学校に行ってました。今も45校くらいとやり取りしてます。たぶん今年は120回以上学校を回ることになるかなと。自分たちにできることの限界は教員だったときも今も感じているんですけど、限界を超えるには、みんなでつながって支えるしかないと思っています。

スーパーの跡地を活用してみんなでリフォームした常設の居場所。初年度30人だったかけはしの登録者は現在70人を超える。

立ち上げから2年半たったときに、横浜市教育委員会が「ハートフル西部」という公設の居場所をつくってくれたので、「ぜひ私たちが運営したい」と公募型のプロポーザルに手をあげて、採択されて今に至っています。諸経費・事務手数料で月千円はいただいているんですけど、当初からの目標だった原則無料ですべての子を受け入れることが可能になったので、そこは思いがかなったところです。

いい土があれば自分で伸びていける

――かけはしと学校、両方を行き来する子もいますか?

完全に登校ゼロではなくて、週一回学校にも行って、かけはしにも来ているっていうような子が多いですね。

「もう僕はかけはしを卒業してこれから学校行きます」っていう子も少数ですけどいます。そういうときはもう「頑張れ」って背中を押して。もちろん「また戻って来ても大丈夫」という気持ちもあるんですけど、でもそういうときの子どもの意志の強さというか、自信を持った姿はすごく頼もしいです。

――農園もされていますが、それも当初からの構想ですか?

そうです。泉区内で七か所の畑を借りています。でも畑は子どもたちには人気がないですね(笑)。大変だし、汚れるし、虫嫌いだし。ただ行きたいと思った子が来てくれたらうれしいし、畑が安心できる居場所になる子もいます。 とにかくかけはしの理念で大事にしてるのは一緒にやることですね。一緒に走るというより一緒に歩く、一緒に立ち止まることのほうが多いんですけど……。パワーがなくなって、傷ついたりとか、もう本当にやる気がないときは「休もうよ、話そう」って一緒にいる存在ですよね。喜怒哀楽を共にするのがすごく大事だと思っていて。そういう場になったらいいなと思います。

廣瀬さんは教員時代、畑のある小学校で「畑主任」を担当。農業での学びは団体の理念「土になりたい」にもつながっている。

私たちには「土になりたい」という大きな理念があるんですよ。畑をやっていて気づくことですけど、いい土があれば作物って自然に育つんですね。逆に悪い土にいくらいい苗を植えても全然育たない。

これは教育にも言えるのかなと思っていて。子どもたちひとり一人違うすばらしい個性を持った存在なので、いい環境、いい土があれば、その子はその子らしく自分で自然に伸びていける。

だから私たちは土で、私も妻もスタッフもボランティアも土の一部になろうと。指導者でもなければ、導く存在でもない。「私たちはただの土だよ。伸びていくのはあなただよ」っていつも思っています。

「かけはしの目指すゴールはなんなのか?」スタッフやボランティア同士で対話を重ねつつ、答えのない問いに向きあう。

一般社団法人かけはし 常設の居場所
ハートフル西部/まなべる居場所
住 所:神奈川県横浜市泉区和泉町6095−10
対 象:小学校1年生~中学校3年生
日 時:月・水・金9:30~14:00 木9:30~12:00 or 13:00
(月・火・金9:15〜10:30〜12:30〜は予約制の個別の活動もあわせて開催)
料 金:月諸経費1,000円(横浜市在住の方)

金子(A)

 

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神奈川県横須賀市で20年にわたり、不登校生の居場所と学習支援に関わってきたアンガージュマン・よこすか理事長の島田徳隆さん。
上町商店街の中で成長していく子どもたちを地域の方とともに見守り続けてきた島田さんが、やさしく紹介する不登校理解に役立つアイデア集です。

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