尊厳ある一人の人として尊重される経験を

びーんずメイトVol.38
まなびスペースCOCOCARA(ココカラ)
漆原幸子さん

2020年にスタートした
千葉県千葉市のフリースクール
「まなびスペースCOCOCARA」。

学びと遊びの両方を大切にしながらも、
子どもたちは決してそれを
強制されることはない――。

フリースクールと教育啓発活動を通じて
子どもたちが自分らしく学び、
ありのままに育つ社会を目指している
代表の漆原幸子さんにうかがいました。

月1回、キャンプ場でフリースクール合同のイベントも開催

――まなびスペース COCOCARA を立ち上げた経緯を教えてください。

もともとこのフリースクールは保護者向けの教育系サークルから始まったんです。

私の息子が小学1年生で不登校になったとき、オランダのイエナプラン教育を取り入れたフリースクールにつながってから、もうみるみるうちに元気になったんですね。私も子どもの不登校を経験して、子育ての原点や教育の本質を考えるようになった。それを折に触れて思い出せるような親の学びの場があったらいいなと思って、親のためのサークル活動を始めたんです。専門家を招いて講演会を開いたり、親の座談会をしたり。その学びの中で得たことを身近な子どもたちに還元できるような活動をやってみようと仲間と立ち上げたのが、このフリースクールなんです。

まなびスペース COCOCARA代表・漆原幸子さん

授業なんてもってのほかだった

息子はカトリック系のモンテッソーリ教育を取り入れた自由な幼稚園に通っていたんですが、活動場所のキャンプ場はその幼稚園のシスターに紹介していただいたんです。キャンプ場のオーナーが月に1回、共有スペースを貸し出してくださることになって。

でも子どもたちがそこで顔を合わせるようになって慣れてくると、「また明日も会いたい」という気持ちになってきて月1回では全然足りない。それで2020年の秋から千葉市の補助金を使って今の学舎も借りるようになりました。

――授業もあるんですね?

私たちは活動の理念にイエナプランのエッセンスを落とし込んでいて、「安心できる場」であることと、「夢中になるあそびとまなびがある」ことを設定しているんです。一日のうち午前中は「学ぶ」、午後の時間帯は「遊ぶ」ことを保証する時間というように。

ただ授業は一昨年から段階的に始めたんです。というのも、最初は子どもたちの状態として授業なんてできない。もっと言えば「集まって」と言っても子どもたちが集まらないところからのスタートでしたね。

不登校を経験した子の中で傷つき体験が大きい子にしてみたら、よくわからない大人から「集まって」と言われても来るわけがない。何をやらされるかわからないし、怖いじゃないですか。逆にもう自分のやりたいことの軸が育っている子たちは、自分がやっていることをやめてまで授業に参加したくはない。「それやる意味あるの?」って相手にもしてくれない。授業なんてもってのほかでした。なので、まず外で鬼ごっこをするようなところから仲間意識を育んで、社会性を少しずつ醸成させていって――みんなが同じ土俵に上がってくるようになるまでに3年はかかりましたね。

壁に掲示された「COCOCARAスタッフからの約束」。子どもたちの安心の場であろうとする決意が伝わってくる。

――その三年間は畑の土作りのような。開墾して、耕して。根気がいりますね。

どうしてこんなにつらい思いをしながらやるんだろうと毎日思っていました。でも、子どもたちには子どもたちの言い分があって、だけど私たちにも私たちの思いや言い分がある。それを根気強く、少しずつ本音で伝えていった感じです。

おもんぱかってもらった経験がつながる

3年かけてしっかり土壌ができてから取り入れるようになった授業も、「無理強いはしない」と最初に子どもたちに伝えているんです。

国語は千葉大学名誉教授の首藤久義さん、算数は理事を務めてくださっている古山教育研究所の古山明男さんにお願いしています。首藤先生は「僕の話は基本的に聞く必要はありません」と仰るので、子どもたちは本当に聞いてなくて(笑)。日本を代表する国語教育のパイオニアをお呼びしているのに、もう私なんか冷や汗ものですよね。でも先生は全然気になさらなくて。

授業は途中で離脱してもいいので隣の部屋に行ってしまえばすむわけなんですが、わざわざ隣の部屋からマンガ本を持って授業に戻ってくる子もいるんです。マンガを読みながら、でも先生の話もちゃんと聞いている。面白いですよね。

しーちゃんこと首藤久義さん(中央)の授業の様子。それぞれの参加の仕方で「すごく心地いい雰囲気です」と漆原さん。

――子ども同士のかかわりはどうですか?

相手にきつい言い方をするような子がいるときは、もちろんスタッフもかかわるんですが、子どもたちが作戦会議を開いて“どうやったらその子を傷つけずに伝えられるか”を相談しあうといった経験をしてきました。「あれは良くないと思う」とダイレクトに伝えるときも、「お前はだめだ」という言い方をする子は一人もいなくて。最初からずっと「あなたは尊厳ある一人の人としてここでは尊重されるんだよ」という形でみんながかかわりあってきたからこそ、できていることなのかなと思います。

自分がおもんぱかってもらった経験が、今度は相手をおもんぱかることにつながっている。ときには子どもが大人をおもんぱかることさえあって。もはや大人が子どもに支援をするとか、子どもは支援をされる側とかではなく、個の尊厳とか対話とか、そういう場ができ上がってきたことを体感しています。それはすごくうれしい経験ですね。

「安心していられる」「夢中になるあそびとまなびがある」「ともに過ごすしあわせな時間を分かち合う」の3つが理念の柱。

NPO法人COCO.NET
まなびスペースCOCOCARA
住所 :〒265-0066千葉県千葉市若葉区多部田町752−10
日時:月・水・金のうち月9回開催 10:00〜16:00
利用料:単発利用料5000円/日 月極利用料30,000円(開校日すべて利用の場合。キャンプ場の活動も含む)
問合せ:info@coconet-chiba.or.jp

金子(A)

 

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不登校インタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』Vol.10

学校へ行かずにいると、将来どうなるの?
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もちろん、そこに正解なんてありません。
世の中の多くのものごとと同じように。

でも、
いろんな例を見聞きし、知ることができれば、
不安を和らげるのに役立つのではないか。

そんな思いから
自らも息子の不登校を体験した親である
びーんずネットの二人が、不登校をテーマに
インタビュー事例集を作成しました。

不登校・ひきこもりを経験した人。
その保護者。
子どもたちに寄り添う人。
そして自分の学びを実践した人。

そんな七人七色の「雲と青空」を、
丹念に取材してまとめました。

雲を抜けた先には、
いつも青空が広がっている――。

ぜひ、ページを繰って、
あなた自身でそれを確かめてみてください。

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